『Canna dans la boîte』music by Xiph

STORY

03.Parting

村に着くとそこはもう火の海だった。
見慣れた家々は炎と煙に包まれ、酷い臭いが辺りに立ち込めていた。
上空には夥しい数のアンセクトが、群れを成して飛んでいる。
その羽音と共に、悲鳴や叫び声が聞こえる。
その中を一目散に駆け抜け、おじさんとおばさんが待つ家へと向かう。

もう少し…!もう少し!!

あの枯れ木を曲がれば2人の待つ家だ。
僕は無事であってくれと祈りながら、勢い良く枯れ木を曲がった。

しかし、

僕の期待を裏切る様に現実は残酷だった。

「「ギシャァァァ!!」」

耳を劈く様なアンセクトの鳴き声。
家は燃え崩れ、無数の鋭い鎌の様な腕をもつアンセクトが家先の庭にいた。
奴の両手には見慣れた2人が首を締められ、宙吊りにされている。

「イ、イヤァァァァッ!!」
エニスが隣で悲鳴を上げる。
「ア…アッシュ!エニス!ぐっ…来るなっ!!逃げなさい!」
「おじ…さん……」

身体が動かない、これじゃまるで…。

「ギシャァァァ!」
「ぐぅっ!」
「おじさんっ!!」

強い力で首をぎちぎちと締め始め、おじさんの顔が苦痛に歪む。

僕は………僕は……僕はッ!!!

「うわぁぁぁーー!」

腰に差してある武器を手に取り、奴に向ける。
切っ先が震えるがそんなのはもうどうだっていい。
あいつさえ殺せれば……殺せ!今はそれだけを考えろ!

「アッシュっ、無茶よ!!!」
「やめなさい!私たちのことは、いいから…!!逃げろ!!!」
エニスとおじさんの声が聞こえる。

大丈夫、今、僕が助けるから。

「オォーーーっ!!!」

走り出す。

-もう、覚悟は出来た。

「ヤメテーーーっ!」
「ッ?!」

「……アッシュ」

それは、いつものおばさんの声。
いつも僕を呼ぶ時の声。

僕の足が止まる。

おばさんは、優しく笑っていた。





「大好きよ…」








ザシュ





鋭い鎌が2人の首元を引き裂き、ドサッと奴の手から何か地面へ落ちた。
そしてすぐ後に、温かく真っ赤なモノが僕に降り注がれた。
僕の髪を伝い、ぱたぱたと雫が滴る。



「あ………ァ…」



前にも似た感覚を知ってる。えっと、あれは確か…



「お……サ…ァ」



あぁ、思い出した。







僕の両親が死んだ日だ。







「アァァァァァァぁァっ!!!!!」

懐かしい痛み。
こんな想いをしない様に、僕はあれからずっと………。

「ギシャァァァ」

奴は手にしている物をムシャムシャと食べ始める。

そうか、またお前らか。

またお前らが奪うのか。

「ニク…イ……」

こいつらさえいなければよかったんだ。
そうすればきっとみんな幸せだった。
そうすれば、誰一人涙を流すことはなかった。

…これから僕はどうすればいいんだ?
全てを奪われた僕に、一体何ができる?

……あぁ。むしろ、もう怖いことなんてないのか。

もう何もない僕だから。
もう他のみんなには涙を流してほしくないから…


だから、僕が全員殺してあげなきゃ、ね?


そう、みんなの笑顔の為に。
あははは!なんてスバラシイ!!
あいつらの首を掻き切ってズタズタにしてこの世に肉片が一つも残らない様にしよう。
だってこんな事する奴らだ。
何をしたって構わないだろ?
誰も奴らの姿を二度と見たくないだろ?
ほら!これでエニスのことも守ってあげられる!!!
…あれ?ねぇ、エニス。何で泣いてるの?
ほら、笑ってよ。これから僕がステキな世界の為に……そう……みんなの為に害虫を駆除するんだ…。
みんなの為に……

みんなのタメニ……

みンナノタメニ……。

フフッ。なんだか、楽しくなってきた。

庭には、あの二人が植えた花が。
初めて出会った時に、僕のこれからを祝って二人が植えてくれた真っ白な花が、
紅く色付き、

ぐしゃぐしゃに潰れていた。

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